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吉川 慶インタビュー

――今回、吉川さんが『ガンダムAGE』の劇中音楽をご担当された経緯をお聞かせいただけますか?
 サンライズさんから私の所属する事務所を通じてお話を頂いた時点では、実はまだ作品名は知らされておらず、『ガンダム』の新作と聞いたのは、わりと後になってからでした。
大作アニメとは聞いていましたが、後でタイトルを聞いて、驚きましたね。
『ガンダム』シリーズとしては、以前に『SDガンダム三国伝 Brave Battle Warriors』を担当させていただきましたが、今回はいわゆる“本編”タイトル。
シリーズに続けてご縁をいただいた嬉しさと、「ついに!」という感慨がありましたね。
そこからしばらくして、音響監督の藤野(貞義)さんを含め、スタッフの方々とのミーティングがありました。
作品の内容を伺いながら、どういった音楽にするかのコンセプトを皆さんのお話から拾って組み上げていきましたね。

――『ガンダムAGE』の劇中音楽は、壮大で勇壮な生のオーケストラサウンドがメインですが、そのミーティングでは、どのようなやりとりが?
 これが非常に熱いミーティングだったんです。
スタッフの皆さんが『ガンダムAGE』に対する思いの丈をぶつけ、その中から大枠のイメージが話し合われました。
そこで「オーケストラサウンドで行こう!」という具体的な話が出た記憶は実はないんですが、今回はストーリーそのものが3世代に渡る壮大なものですし、「王道の音楽」「大河ドラマ風の音楽」で行きたいという方向性は一致していましたから、全員の頭の中にオーケストラサウンドが浮かんでいたように思いますね。
そこから藤野さんとさらに相談を重ねて、「世代によって曲調は変わるが、全体を貫くものがある音楽」という、より具体的なコンセプトが見えていった感じです。

――そこから制作作業に入られたわけですが、1曲1曲はどのように作られたのでしょうか。
 事前に、全部ではないにしろ、だいたいの絵コンテとシナリオは渡されていまして、それを参考に。さらに直接のガイドラインとなったのは、藤野さんがお書きになったオーダーシートですね。
1話~8話のシナリオから抜粋して、それぞれの曲が使われるシーンの説明と、必要な曲の長さがテキストで書かれているんです。
最初の段階で約50曲分。それをもとに、先ほどお話ししたミーティングの席で藤野さんが中心となって場面場面について語り、1曲1曲、お互いのイメージをまず、すり合わせて行きました。

――具体的に「こんな曲調で」というお話があるわけでは……?
 ないですね。僕のほうで、ミーティングで出た気になった言葉などをメモしておいて、それをもとに曲想を膨らませていきました。

――ここまで具体的な解説がされた楽曲へのオーダーシートは、他のアニメ作品ではなかなかないことだと思います。それだけ『ガンダムAGE』には制作スタッフの皆さん、藤野音響監督の並々ならぬ熱意が込められているんですね。
 そうですね。そういった思いの丈があったほうが、僕も想像が膨らみますし、非常に助かりました。

――シート拝見すると「ガンダムAGE出撃シーン」「フリットの回想」「MS戦」など様々なオーダーがありますが、どの曲から取りかかられましたか?
 まずはメインテーマですね。
メインテーマやフリットのテーマなど、作品の根本的なモチーフを軸に他の曲も展開したいというのが藤野さんと僕との共通見解。
1曲1曲を考えつつも、全体的なバリエーションも同時に考えていきました。

――ファンの皆さんがいちばん多く耳にするのはメインテーマだと思いますが、この曲はオーケストレーションの雄大さ、メロディー自体のゆったりとした勇壮さがとても印象的。
力の湧いてくる曲ですね。

 メインテーマは、この『ガンダムAGE』の物語そのものを表現したつもりです。
“戦い”がキーワードにはなっていますが、その中に“時代”が流れているような。ただ、メインテーマが完成したのはけっこう後で。
最初、作ったメインテーマをもとに何曲かをそのバリエーションで作っていました。
ところが、ちょうどその頃に、第一話の映像を頂き、曲を合わせてみたら合ってないように感じた。
メロディーを変えれば何とかなるかとも思ったんですが、雰囲気自体が戦闘的なイメージに寄りすぎていて、100年間に及ぶ戦いという世界観にはそぐわない気がしました。結局、全体を3度ほど書き直しましたね(苦笑)。

――やはり、映像からインスパイアされるものは大きいですか?
 大きいです。いちばんはテンポ感ですね。戦闘シーンが、絵コンテやシナリオから想像したよりも緊張感があってゆっくり動く映像だったり。
そういうちょっとしたことで、曲作りも変わりますね。

――映像を目にして、メロディーラインがパッと浮かんできた感じですか?
 いえ、細かいメロディーというよりも、全体の雰囲気がまず。
そのモヤモヤと感じているものを、パソコンの音楽制作ソフトと鍵盤に向かいながら、ちょっとずつほぐして形にしていく感じですね
。僕は音楽制作ソフトは『Logic Pro』と『Pro Tools』を使っていますが、ちょうど『ガンダムAGE』の作業中にバージョンアップがありまして。
ソフトのバージョンアップをするためには、OS自体もバージョンアップが必要になり……と、新しい『ガンダムAGE』に合わせて、僕の制作環境も新しくなりました(笑)。

――そうして、吉川さんが打ち込みで作られたデモ音源をもとに、生オーケストラと生楽器によいるレコーディングが行なわれたわけですね。
 はい。楽曲数が多いのでレコーディングは数日間に分け、弦楽器、木管楽器、金管楽器などパートごとに収録しました。
僕自身にとっても、今回ほど多くのオーケストラ曲をレコーディングしたのは初めての経験でしたね。

――吉川さんは、いわゆるバンドサウンドなど、ポピュラーミュージックのレコーディングも多数ご経験がありますが、生オーケストラのレコーディングと最も違う点はどこですか?
 生楽器はどれもそうですが、特にオーケストラは、演奏者がどなたになるかで全体の音がガラリと変わりますね。
同じ人数で弦楽器を弾いてもらっても、メンバーが何人か違うだけで、音の鳴り方が違います。
演奏家の個性やバランスで、少ない人数でも、まるで大編成のような豊かな響きが得られることが。
ですから、頭の中でどういう楽器編成にすべきかを考える難しさもありますね。

――勇壮な曲も多いので、レコーディング現場のテンションも非常に高かったようですね。
 同じ編成でやらせて頂いた事で、制約のある中でも一体感が持てたと思います。
皆さんからも奏法に関していろいろなアイディアをいただきつつ、弾き終わった後には肩で息をするような、非常に熱気あふれる演奏をしていただきました。
おだやかな曲でも激しく歌っているので、ほとばしりがある。
僕も作曲の段階から、どの曲にも裏側に感情が流れているような、ほとばしりを感じられる曲にしたいと考えていましたから、演奏家の皆さんのお力も加わって、クオリティも想像以上のものになりましたね。

――通常のオーケストラ編成に、カンテレ(※フィンランドの民族楽器の一つ)、デジタルサウンドなども加えられていますね。
 そうですね。ほとんどその1種類の編成で。
編成を変えずに全曲を通すというのは、『ガンダムAGE』に向けての僕の中でのひとつのテーマだったんです。
これまで様々な劇伴を作らせていただきましたが、今までは楽器編成自体にバリエーションを付けて、いろいろなテイストの楽曲を提供してました。そのほうが、いろいろな場面に対応できて便利ですからね。でも今回は、ひとつの編成の中でのバリエーション作りに初挑戦を。
コンセプトが“王道”でもありましたし、そのほうが“色”がはっきり付くと考えたんです。
その意味でも『ガンダムAGE』の楽曲制作は、僕にとっても大変勉強になりました。

――そういう試みがあったからこそ、吉川さんが最初におっしゃっていたように、それぞれの曲のテイストは異なりつつも、通底する世界観、テイストを他の曲にも感じることができますね。
 どの曲にも、メインテーマの一部分……メロディーの展開だけではなく、感情的な部分も込めるように作ったつもりです。それぞれの楽曲構成、展開も既存のやり方にこだわらず作りましたので、僕自身も大変、面白かったです。
ただ今回作った約50曲は、ストーリーで言うところの“第一世代”のもの。
『ガンダムAGE』全体の基点となる音楽を心掛けました。
音楽も世代と共に変わっていくのが、今回の大きなコンセプトでもありますので、第二世代、第三世代へと移り変わる物語に合わせて、同じテーマを使いつつ、音楽もガラリと変えていこうと思っています。

――それは楽しみですね。それを心に留めながら、ファンの皆さんには、まずは第一世代の音楽をじっくり楽しんでいただきたいですね。
 この音楽は作曲した僕だけでなく、藤野音響監督以下、スタッフの皆さんの作品への深い思いの丈があってこそ、完成度の高いものになったのだと思います。
とはいえ、音楽はあくまでも映像を引き立て、際立たせるためのもの。
まずは『ガンダムAGE』というアニメーションの素晴らしい演出を味わっていただき、その後で音楽からも“ほとばしり”を感じていただけたら、僕も嬉しいですね。